~自分たちが歩む道 しもやまロード~

 

 下山小学校は、岡崎市の北東部の山間地にある全校22名のへき地小規模校である。学区は、長い歴史と豊かな自然に裏打ちされた価値あるものに囲まれており、子供たちは、下山ならではの特色ある学校生活を過ごしている。本校では、子供たちが主体的に学ぶ力を育むことができるように、郷土学習を基盤とした問題解決的な総合的な学習の単元開発に取り組んでいる。

下山小学校の学区には、昨年の4月に「トヨタテクニカルセンターしもやま」(以下「TTCしもやま」と示す)の一部が完成し、活動を始めた。「TTCしもやま」は、豊田市と岡崎市の境の中山間地域に、約650㏊の敷地を擁して作られた、トヨタ自動車の研究開発施設である。ドイツのニュルブルクリンクのコースを模し、すでに稼働している約5.5㎞のカントリー路、2㎞に及ぶ直線をもつ周回路、デザインや開発を手掛ける実験棟を一所に集め、モビリティカンパニーを目指すトヨタ自動車が、次世代の自動車づくりのために作った世界に誇る研究開発拠点である。

本年度、高学年は、次のような実践を行った。はじめに、社会科で「自動車をつくる工業」を学習した。そのときに、トヨタ自動車の環境に配慮した車作りや車に乗る人だけでなく、働く人にまで安全を追究していることを学習した。そして、トヨタ自動車は、世界に車を販売していることや海外にも工場をもっていることも学んだ。その学習の中で、「いい車を、早く、安全に届けたい」という、トヨタ自動車の開発者の願いを感じとることができた。

導入では、テストコース開発について、両親や祖父母が感じていることの聞き取りを行った。子どもたちは、自分の祖父が土地を売ったことや自動車の交通量が増えたことなど様々な情報に触れることで、開発が下山地区に影響があるのではなのかと考えた。そこで、開発が始まった当時を知る方々に話を聞いた。テストコースが開発されることで、下山の知名度が上がることや、定住促進が進むことへの期待がある。一方で、ふるさとが開発され、下山のよさがなくなってしまうかもしれないという不安を感じた。子供たちは、下山地区の人口増加への期待をしながらも、環境汚染などの不安を口にしていた。ある子供は、「トヨタ自動車は、環境に優しい開発をしているはずなのに、下山の環境を守れているのか」と発言していた。その後、不安を解消するために、トヨタ自動車の開発部の方にも話を聞きに行った。実際にコース見学や開発部の方の話から、世界に負けない自動車の開発をするために、どれだけ「TTCしもやま」が必要なものなのかに気づいた。合わせてトヨタ自動車は、開発だけでなく、下山名産の柴田酒造場の酒造りには欠かせない「神水」に影響が出ないようにする配慮や、額田地区で作られている米「ミネアサヒ」の無農薬栽培方法の提案など、地域貢献、自然との共生も考えていることにも気づいた。

この両方の立場の考えを知り、「TTCしもやま」の開発を下山の発展につなげるためには、何が必要であるかを考えた。子供たちの中でもっと多くの人に下山の魅力を知ってほしいという願いが生まれた。20年後の下山がどうなっていてほしいかを思い描き、そのために今の自分に何ができるかを考えた。子供たちからは、まず、下山のよさを知ってもらいたいという意見が出た。下山の「山桜を愛でる会」や「山がのウォーキング」のポスターを作り、「TTCしもやま」で宣伝してほしいという意見が出た。

この学習を通して、児童は学区のことに興味をもち、学区の方々の思いに触れることができた。そして、様々な人が下山の未来について考えていること、自分たちにもできることがあることに気づけた。今後も、子供たちが、地域に愛着を感じ、地域を誇りに思い、自分たちの未来に思いをはせることを目指して学習を進めていきたい。

 

 

報告者:下山小 磯貝 駿斗先生