形埜の森はぼくたちわたしたちのホームグラウンド(形埜小5年生の実践)
~間伐体験を通して森の環境を守る~
本校の5年生は8名である。素直な子どもたちで、どの授業でも意欲的に学んでいる。4年生までに生活科や総合的な学習の時間で、豊かな自然に囲まれた本校の特色を生かして学びを積み重ねてきた。カブトムシ・牛・ヤママユガ・魚を飼育したり、ササユリを育てたりしてきたのである。子どもたちは、これら形埜ならではの特色ある動植物には触れてきたものの、当たり前に自分たちの身の周りにある「森」には関心が薄かった。そこで、身の周りにあるものに問題点はあるのかを考え、それらの問題を解決しようとするようになってほしいと思い、「形埜の森はぼくたちわたしたちのホームグラウンド」の実践を行った。
6月に森の健康診断を体験し、子どもたちは、漠然としてではあるものの、「森を健康にしたい」という願いをもった。そこで、額田木の駅プロジェクト実行委員会の唐澤晋平さんや岩田敦司さんに講師をお願いし、間伐体験を行うことにした。
体験の前に、森のはたらきという視点からどうして間伐をするのかを考えた。子どもたちは、間伐をして下草が生えて森が健康になると、さまざまな環境までよくなることを学んだ。例えば、川の急激な増水を防げること、獣害が減ることなどである。しかし、なぜ間伐が進んでいない状況になっているのかといった根本的な疑問は残ったままで、これらは体験当日に講師の唐澤さんたちに質問してみようということになった。
間伐は、学校から10分程度歩いたところにある柳田と呼ばれる地区の山で行った。間伐をする木の選定や山の整備は、事前に木の駅プロジェクトの方々が済ませておいてくださった。子どもたちは、講師の方から作業の概要を聞いてから山に入り、実際に間伐を体験した。
間伐の作業は、子どもたちにとって驚きの連続であった。昔から受け継がれてきた間伐の技を次々に目の当たりにしたからである。間伐は、まず、木を倒したい方向に「受け口」という切れ込みを入れ、その後、反対側に「追い口」と呼ばれる切れ込みを入れる。チェーンソーを使わずに、8人の子どもが交代しながらのこぎりで切っていった。しかし、なかなか切れずとても大変であった。受け口と追い口ができたら、滑車を取り付けたロープを引っ張ることで木を倒すのである。子どもたちが勢いよくロープを引いたとき、問題が発生した。倒していた木がほかの木に引っかかったのである。「かかり木」と呼ばれる状態である。このとき、唐澤さんが、木の幹に別の細い木をロープでくくり付け、その細い木をハンドルにして木を回した。すると簡単に木は方向を変え、障害物のないところに動き、引っ張り倒せるようになったのである。こうしたプロの技を実際に見て、子どもたちは驚いていた。
プロの技は、間伐した木を運び出すときにも見られた。動滑車を使ってなるべく小さい力で木を山から道まで引っ張り出す技、板とロープを使ってトラックへ積み込む技などである。子どもたちは、それらの技を使ったときと使わなかったときの両方を体験させてもらった。そうすることで、プロの技を、身をもって知ることができたのである。
額田木の駅プロジェクトは、額田地区に生えている木を間伐し出荷すると、額田地区のほとんどの店舗で使える地域通貨「森の健康券」がもらえるという仕組みになっている。子どもたちは、間伐体験後、学校に戻り、自分たちが間伐した木と、木の駅プロジェクトの方々が間伐しておいてくださった木を合わせて出荷するといくらになるのかを算出した。金額は2254円であった。その場で森の健康券2000円分をいただいた。あれだけ苦労して間伐し、他の木と合わせても2000円にしかならなかったこと、さらにそれは岡崎市からの補助金があっての額であったことに、子どもたちは間伐の進まない理由を感じ取ったようであった。
その後、子どもたちは講師の方々に質問をした。間伐に適した季節はいつか、木の駅プロジェクトの名前の由来は何かなど、多くの質問をしていた。その中で、子どもたちは講師の方々の「森の環境を守りたい」という熱い思いに触れた。間伐が進まない森の現況を看過できずに行動し始めた木の駅プロジェクトの方々の行動力は、子どもたちに強烈な印象を与えた。
実際に、体験後の話し合い活動では、「森の環境を守りたい」という思いを自分たちが「受け継ぎたい」という意見が出た。また、この間伐体験を、子どもたちがそれぞれに新聞にまとめる活動でも、その記事の中に、「受け継ぐ」という言葉を書いている子が多くいた。子どもたちにとって当たり前に存在している森。子どもたちは、その森に大きな問題があることを知り、それを解決しようと動いている人たちがいることも知った。そして、その問題を自分事として考え、次は自分たちが解決しようと動くべきだという意識をもつことができたのは、この学習の大きな成果であった。