3本足のチビ
小学校低学年 内容項目 生命尊重
自作資料【常磐南小学校 筧陽子先生】
チビは、11才のオスのねこです。
チビをもらったときは、まだ両手にのるくらいの小さなかわいい子猫でした。
「ミュー、ミュウ。」
チビは、わたしのひざの上で、いつもあまえていました。
チビは、ぐんぐん大きくなりました。いろいろなところにのぼったり、おりたりして家中のたんけん。とくに、せまいところがお気に入り。小さなかごに入っていつもご機嫌です。
外で遊ぶのも大好き。お寺の裏山を元気に走り回って、ネズミやトカゲをとってきて、わたしをびっくりさせました。わたしが、チビと呼ぶと、どこにいてもすぐにとんできます。チビには、わたしの言葉がよく分かるようです。
チビは、とっても人なつっこくて、お寺でおつとめがあるときは、座布団にちょこんとすわって、お経を静かに聞いています。そして、ごはんのときには、「ニャーニャー」とみなさんにおねだり。食べるのも大好き。
チビは、わんぱく猫ちゃん。よその猫とよくけんかをしてけがをしました。そのたびに、わたしは、急いで病院へ連れて行きました。
「今度は、どこのねこちゃんとけんかをしたのかな。」
チビは、やさしいお医者さんとも仲良しになりました。見てもらっている間、ずっとおりこうでした。
チビが3才のとき、お寺の門の前に子猫が捨てられていました。
「かわいそうに。まだ生まれて間もないのに。」
わたしは、その子猫にパンチという名前をつけて飼うことにしました。
チビは、パンチとのことを自分の子供のように世話をするようになりました。パンチにトイレのしつけをしたのもチビでした。パンチがお寺の縁側から降りられなくなったとき。そばに行って降り方を教えてやったりしました。
その後、3匹目のオチョコという子猫も仲間入りしました。チビはいつも2匹のことを気にかけて、いないとあわてて探します。2匹のやさしいお父さんみたいでした。
チビが8才のときでした。チビの膝の所に、丸く膨らんだものができました。さわっても痛がらないので、けがではないようです。そして、4,5日すると、2つ目の膨らんだものができてきました。
「何ができたのかしら。へんな病気じゃなければいいけれど。」
わたしは、心配になりました。すぐお医者さんの所に、チビを連れて行きました。
いつも、にこにこしているお医者さんの顔色がかわりました。
「ひざにがんができています。がんは、怖い病気です。そのままにしておくと、がんが体全体に広がり、チビは死んでしまいます。」
「そんな。チビをなんとか助けてやってください。」
「がんのできている左足を手術で切り落とせば、チビの命は助かるでしょう。早いほうがいい。」
わたしは、しばらくじっと見つめていました。わたしは、悩みました。
「チビは、ほんとうに元気になれるでしょうか。」
「チビはやさしく、がんばりやさんです。大丈夫ですよ。」
「どうか、どうかチビをよろしくお願いします。手術をして、命を助けてやってください。」
手術の日がやってきました。わたしは、チビの左足を何度も何度もやさしくなでてやりました。
「チビ、がんばるんだよ。」
手術の間、元気になってくれることをずっと祈り続けました。
手術は、無事終わりました。
「もう、大丈夫ですよ。チビは、よくがんばりましたよ。」
「チビ、えらかったね。」
チビは、わたしの顔を見て、「ニャー」と弱々しく一声泣きました。
チビは、5日間入院して家に帰って来ました。歩き出そうとしましたが、ふらふらして長い間立っていられません。前のように歩けないのは、チビにとってはショックなことでした。
チビは、ふらふらした足取りで奥の暗い部屋に入って、うずくまってしまいました。そんなチビを見るのは、つらいことでした。
「チビ、きっと歩けるようになるからね。」
わたしは、励まし続けました。
それから、三日たちました。
「ニャーニャー。」
わたしが振り向くと、チビが3本足でしっかり立っているではありませんか。
「チビ、よくがんばったね。」
わたしは、うれしくて、うれしくてチビをしっかりだきしめました。
あれから、3年たちました。
チビは、もうすっかり前のように元気になりました。パンチ、オチョコのお父さんとしてがんばっていますよ。足が3本だなんて思えないほど、しっかりとした足取りです。好きなお寺の裏山も元気に走っています。