聞く地蔵と聞かぬ地蔵
中学校1年生 内容項目 目標の実現
『中学生に道徳力をつけるー授業ですぐ使える新資料35選ー』 明治図書
昔々、ある村にどこからともなく現れた老僧が、荒れ果てたお寺にこもってコツコツと何かやっていましたが、ある日村人を集めて言いました。「ここに2つのお地蔵様ができております。この1体は、村の西のはずれの峠道に、もう1体は東のはずれの峠道に立てなさい。そして、東のお地蔵様は願いをかければ、なんでもたちどころにかなえて下さいますが、西のお地蔵様は願いをかけてもなかなかかなえてくれません。しかし、皆は西のお地蔵様に参ったほうがよいぞ」そう言ったかと思うと、老僧はいつの間にか姿を消していました。
これを聞いた村人は、お参りなさいと言われても、願いをかけても、すぐにかなえてくれない西のお地蔵様にお参りするものはなく、先を争って東のお地蔵様にお参りしました。「病気を治して・・・・」とか「金持ちに・・・・」と願いをかけると、たちどころにかなえられるので、村中の人が競争でお参りするようになりました。1年・2年と日が経つにつれて、村中皆金持ちになり、病気の人は1人もいなくなりました。
ところが、村人達の欲望はエスカレートする一方で、「私を村一番の金持ちに・・・・・」「村で一番立派な家を建てて・・・・・・」とみんなが願いをかけるので、村中金持ちだらけになって、誰も汗水流して働く者はいなくなりました。そのうちに自分だけが幸せになりたいと「誰を不幸にして・・・・・」「誰を病気にして・・・・・」「誰の目を見えなく・・・・・」などと、そんな願いをかけても、東のお地蔵様は即座にかなえてやるので、だんだん貧乏な人が多くなり、病気の人が増えて、村はすっかり荒れ果ててしまいました。
そんなある日、いつかの老僧がひょっこり村に現れて、「それ見なさい。だから私が最初に言ったように、願い事を聞いてくれない西のお地蔵様に参るがよいぞ」と言ったかと思うと、また姿を消してしまいました。
西のお地蔵様は、願い事を聞いて下さるわけではないので、村人はお参りしてもただ拝むだけでした。そして、村人は勝手な願掛けをやめ、欲張るのをやめて皆一生懸命働くようになりました。やがて村は、もとのように平和な村になったということです。